植物としての桐

 

桐の植物学

桐はゴマノハグサ科キリ属の落葉高木です。ゴマノハグザ科の植物は世界に約220属3000種あり広く分布していますが、多くが草の仲間で、大木になるのはキリ属だけ。その証拠に、桐の木の断面を見ると、中心にまるで草のような穴が開いています。
 また、桐は他の樹木よりも生長が早く、20年ほどで高さ8~15m、直径40~60cmほどの成木になります。樹皮は灰白色で皮目が多く、その材はとても軽くてやわらか。先のとがった広卵形の20~30cmにもなる大きな葉が特徴的で、初夏には円錐花序に薄紫色の花を咲かせます。花は5~6cmほどで鐘のような形をしており、先は5つに裂けて外側にカールしています。花後の果実は3~4cmのとがった卵形で、秋には熟して二つに割れ、たくさんの小さな種子を放ちます。

桐の原産は中国といわれることがありますが、宮崎県から大分県にかけての山地や、隠岐、韓国の欝陵島に自生しており、原産地は明らかではありません。桐の材は美しく加工しやすいことから、日本では北海道南部から鹿児島に至る広い地域で古くから植栽され、箪笥や保存箱、下駄、楽器などに適した良質の木材として重宝がられてきました。

日本では木材利用を目的として植えられた桐ですが、欧米では花を鑑賞するための花木として楽しまれてきました。ヨーロッパに桐を伝えたのは、江戸時代に来日し『日本植物誌』を著したドイツ人医師シーボルト。学名の「ポローニア(Paulownia)」は、彼の後援者であったオランダのアンナ・パウローナ女王の名にちなんで献名されました。

和名については、江戸前期の儒学者であり、本草学者でもある貝原益軒が『大和本草』に「此木切レバ早ク長ズ、故ニキリト云フ」と記し、桐の語源は「切り」だと述べています。
 中国では梧桐(アオギリ)を「桐」と呼んでいたことから、古くは日本でも混同され、「桐」と書いてアオギリ、ハリギリ、イイギリ、アブラギリ、ヒギリなどを広く指していましたが、いずれもキリ属とは全く別種の樹木です。

 

木材としての桐

日本において、桐は古くから家具や日用品の材に用いられ、各地で植栽されてきました。なかでも、岩手の南部桐や福島の会津桐などが有名でしたが、近年、国内の生産量は減少の一途をたどり、現在では約8割を中国や台湾、アメリカ、ブラジル、パラグアイなどから輸入しています。

国産桐材の種類には、一般にニホンギリと呼ばれるものの他に、大正初期に中国から導入されたラクダギリ、朝鮮半島で発見されたチョウセンギリ、台湾から昭和初期に入ったウスバギリがあります。そのなかで、木質や木目の美しさではニホンギリが最高品とされ、希少価値が高まっています。日本で唯一、桐の原木だけを扱う桐市場は秋田県にあり、年に1回の入札会では良質の国産桐を求めて全国の桐業者が集まります。

日本人が好んで桐を用いたのは、その優美さばかりが理由ではありません。桐のもつ実用的な特性が、日本の気候風土に適していたからです。その利点を、まとめてみましょう。

[軽い]
桐の気乾比重は0.3で、国産有用樹のなかで最も軽い木材です(杉は0.38、檜は0.44)。桐を用いた軽い家具は、移動が容易で子どもや高齢者にも扱いやすく、バリアフリーな家具材として近年注目されています。
[やわらかい]
桐は他の木材に比べてやわらかく、弾力性があります。よって、桐そのものは傷つきやすいものの、逆にぶつかったものを損ねないという利点も。また、やわらかな肌ざわりは心地よさや温もりを感じさせ、昔から素足で履く下駄の材として好まれてきました。
[湿気に強い]
桐は多孔質で水分を呼吸するように調整します。よって、桐を用いた収納具は湿度を一定に保ち、中身を湿気やカビから守ります。高温多湿の日本で昔から桐箪笥や桐箱が使われてきたのはそのため。割れや狂いが少ないのも、桐ならではの特性です。
[燃えにくい]
桐の熱伝導率は国産材のなかで最も低いうえに、着火点は425℃と高く、非常に燃えにくい木です。万が一燃えても表面が炭化しやすく、内部まで燃えるのに時間がかかります。この優れた耐火性によって、桐は金庫の内張として古くから利用されてきました。
[保温性・断熱性が高い]
桐の材は多孔質で、まるで発泡スチロールのように気泡状の独立した組織が密集してできているため、外気温の影響を受けにくく、保温性・断熱性に優れています。昔から、ごはんのお櫃として使われてきたのはそのため。床材に用いれば、冬でも冷たく感じません。
[虫を寄せ付けない]
桐は虫が嫌うタンニン、パウロニン、セサミンなどの成分を多く含んでいることから、虫を寄せつけず、優れた防虫効果を発揮します。昔から衣類をしまう桐箪笥やお米を保存する米櫃に桐材が用いられてきたのは、害虫がつくのを防ぐためでした。

このように、四季があり、湿度の高い日本の気候風土のなかで、桐は私たちの暮らしをさまざまな形で支えてきました。現代に伝わる桐製品には、桐の特性を暮らしに活かす先人たちの知恵が詰まっているのです。

 

エコロジカルな桐

桐は成木になるのが早い“早生樹”。15~20年ほどで製材・加工ができる大きさに育ちます。ちなみに、杉が木材とし使えるようになるのに約80年、松ならば約40年の年月が必要といわれますから、桐は他の樹木に比べて格段に循環のサイクルが短い木だといえるでしょう。

桐がエコロジカルな樹木といえるのは、生長の早さからだけではありません。植物ですから、当然、成長期には二酸化炭素を吸収して、体内に炭素を固定します。吸収率も他の樹種に比べて高いというデータもあるほど。地球温暖化の原因となる温室効果ガスのなかで、大きな割合を占めている二酸化炭素の抑制に大きく貢献しているのです。

また、桐の材を用いた桐箪笥は、削り直すことで、親から子へ、子から孫へと、100年以上も使い続けられる素晴らしい家具です。削ることを前提に作られていますから、金属の釘ではなく木釘を使っているのも特徴で、削った際に出るゴミも、そのまま土に還すことができます。
 一方、桐は調湿性に優れ、防虫効果もあるので、桐箪笥にしまった衣類はおのずと長持ちします。ものを大切に使うという姿勢も、環境問題に取り組むうえでは、とても大切な視点です。

このように、桐は人類の大きな課題である地球環境の保全に、さまざまな形で応えてくれるサスティナブルな(持続可能な)樹木といえます。私たち人類が生きていくためには、木を伐ってものを作り、ゴミを出すという行為を止めることはできません。しかし、桐のように資源化までの年月が短く、家具の材に用いれば長期間使うことができ、最後は自然に還せる素材の魅力を見直し、活用の機会を増やしていくことで、いま人類が直面している地球温暖化や森林破壊、ゴミ問題などの環境問題に、何らかの解決策が見いだせるかもしれません。

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